社会や音楽etcについて
2015.6.23
安全保障法案の審議する中で、集団的自衛権が憲法に違反するのか、しないのかが国会で論戦となっている。政府は合憲であるとの解釈に問題なしと主張。野党はこれまでの政府解釈と異なり、違憲であると主張する。論戦のベースが、立場によって異なる「憲法解釈」にあるため、水掛け論となっている。
憲法九条の条文を見ると、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持せず」とある。しかし、現在の自衛隊の装備・能力を見ると、「戦力」であることは明らか。世界の常識では、日本は世界第9位の軍事力を保有する国である。装備の質を考慮すれば、もっと上位らしい。
要するに、警察予備隊から始まり自衛隊に移行した段階で、日本は憲法九条に違反したと言える。自衛隊創設の時点で憲法問題を真面目に扱っていたら、解釈というあいまいな対応を繰り返すことはなかったであろう。憲法改正のハードルが高いため、手っ取り早い「解釈」で事を済ませてきた。
今回の集団的自衛権の扱いでも、憲法改正は時間がかかるし、否決される恐れもある。だから、解釈の拡張で乗り切ろうとしている。「戦力を保持せず」は0か1のデジタルな判断である。しかし、「解釈」はアナログな判断であり、0%から100%までの幅が出てくる。
集団的自衛権に則り、海外で外国軍隊を支援すると自衛隊員のリスクが増える、増えない、の議論もアナログな判断であり、白黒を決着することができない。水掛け論であり、不毛な議論である。
例えば、下の表では赤から白までの色見本を憲法解釈の度合いと比べてみた。一番上のAの色はWebカラーコードで表すとFF0000であり、一番下のKのカラーコードはFFFFFFである。AおよびKの場合、明快である。現実の国会審議で質疑応答されていることは、BからCの間のどの位置から赤色と認識するのかの議論に相当する。さて、皆さんはどの位置に赤と白の境界があると認識するのでしょうか?実際のカラー変化の階調数はもっと多いのであるが、ここでは簡略して表示している。
A |
完全な軍隊を保持 |
明快な憲法九条違反 |
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B |
? |
? |
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C |
? |
? |
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D |
? |
? |
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E |
? |
? |
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F |
? |
? |
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G |
? |
? |
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H |
? |
? |
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I |
? |
? |
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J |
? |
? |
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K |
軍事力は皆無 |
憲法九条を完全に満足する |
法律の憲法判断を最高裁で行った唯一の判例が砂川裁判とのこと。そこでは、個別自衛権と集団的自衛権の区別がされていなかった。それに加えて、昭和47年の政府見解は集団的自衛権が憲法に含まれないとしていた。この解釈は、その後の歴代内閣に引き継がれてきた。この政府見解は2014年7月1日に集団的自衛権を認める閣議決定によって覆された。
要するに、集団的自衛権が憲法に合致しているのか否かの重要な判断が有権者数に比べて圧倒的に少数の閣議メンバーによってなされた。衆参両議会の過半数を制した政府与党は、民主的な手続きである多数決で集団的自衛権を認めたことに何ら問題はないと主張する。しかし、憲法の改正に匹敵する重要事項を議会の多数決で済ませる与党の行動には無理がある。
安全保障法案をどうしても成立させたいならば、法案審議の前にやるべきことは憲法の改正である。第九条を「陸海空などの戦力を保持する」と改正すればよい。ただし、この改正によって日本は非常に貴重な平和国家というブランドを失う。
いずれにせよ、世界情勢が変わったから外国軍隊と連携して武力行使をすることが必要だとし、そのためには集団的自衛権を日本が持たなければいけない。だから集団的自衛権は憲法に合致する、という無理な理屈を主張する政治家や学者がいる。世界情勢に憲法を合わせるという理屈であり、本末転倒である。 |
米国の軍事力が衰退した分を日本が肩代わりするために集団的自衛権が持ち出されていると考えれば、色々な事項を理解することができる。要するに米国が海外展開できなくなった軍事力を日本が引き受けるということである。
米国と日本がタグを組んで世界の警察官となることが果たしてできるのか?米国は人口が増加しているが、日本の人口は減少しつつある。日本は巨大な財政赤字を抱えている。日本のGDPは世界第3位であるが、世界第2位の中国との差は急速に拡大している。この現実を見れば、米国の軍事力を補うだけの実力はないと考える。
軍事力の強化は軍事費の増加を招く。これは日本の経済にダメージを与え、日本を不安定にするであろう。その結果として、日本は平和と安全を失う。安心して暮らすことができる社会とはならない。
平和と安全を護る方法は、軍事力と軍事費を最小限に留め、外交力の強化および近隣諸国との友好を強化することである。平和ブランドに磨きをかけることが良い。
現在の航空自衛隊の戦闘機は航続距離を短くする改造が高額な費用をかけて施されている。この改造は他国を侵略する意図がないというメッセージである。専守防衛であり、これで十分と思う。
国会審議の中で、安陪総理はホルムズ海峡が封鎖されると石油の輸入が滞り、冬に凍死者が出る、との説明をした。残念ながら、この説明は現実を理解しない人の説明である。
筆者の理解を以下に記す。
図1 サウジアラビアのパイプライン サウジ油田画像集より |
図2 アラブ首長国連邦のパイプライン UAE油田画像集より |
憲法第九条
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第二項
前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。